花影【カエイ】二六二年、東華央国【トウカオウコク】は未曾有【みぞう】の大飢饉【だいききん】に襲われた。

 民の半分が死に絶えたとき、子を成す女はほとんどが土に還っていたという。

 時の支配者であった花影帝【カエイテイ】は、天に助力を願い出て、人の子の魂【コン】と同じ性質を持つという根【コン】を多数、賜【たまわ】った。

 それを人の子と同じ形の赤土に篭めれば、たちまち男と成り、女と成った。

 民が元の人数に達した暁には、一つ残らず天へ還すはずの根【コン】であった。

 ところが、花影帝【カエイテイ】は神祇官【ジンギカン】の長に、根【コン】を保管するよう命じたのである。

 神祇官【ジンギカン】の長は、一つに取りまとめた根【コン】を人の子の魂【コン】に似た輝きを放つ己が心臓に秘匿【ひとく】して、まんまと天をあざむいた。

 だが、神祇官【ジンギカン】の長の手技【てわざ】により作られし人の子は、意思を持たぬ人形【ヒトカタ】でしかなかった。

 それより百七十余年の後――。

 神祇官【ジンギカン】の長の血肉を受け継ぐ傀儡師【クグツシ】の手技【てわざ】により作られし人形【ヒトカタ】は、皮肉なことに意思を持たぬがゆえ民に受け入れられた。

 これから語られるのは、さらに二百五十年後の話。

 傀儡【クグツ】を超えた単動式傀儡【カラクリ】を巡る、小さな御伽噺【おとぎばなし】である。


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